江戸川乱歩
- 作者: 江戸川乱歩
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 1960/12/27
- メディア: 文庫
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大正文学なんだけど、主人公に異常にNEETが多い。NEET臭いのが。生きることが退屈で殺人に手を延ばすみたいな話がいくつかあるし。『屋根裏の散歩者』に至っては冒頭から飛ばす。
多分それは一種の精神病でもあったのでしょう。郷田三郎は、どんな遊びも、どんな職業も、何をやってみていても、いっこうこの世が面白くないのでした。
(中略)
そして、とうとう見切りをつけたのか、今では、もう次の職業を探すでもなく、文字通り何もしないで、面白くもないその日その日を送っているのでした。
(中略)
親許から月々いくらかの仕送りを受けることのできる彼は、職業を離れても別に生活には困らないのです。一つはそういう安心が、彼をこんな気まま者にしてしまったのかもしれません。
そんな感じで、結構現代的なのかも。『人間椅子』なんかは、醜い顔の若い椅子職人が、自分の作った椅子(傑作)に耽溺するあまり、椅子の中に潜り込んで、座る人間の肉の温もりを密かに楽しみ、やがてその椅子の持ち主に一方的に恋をする、という『匿名性』『非モテ』『童貞』『オタク』の四拍子揃った今ホット(一部ネット論壇で)な造り。ちなみにやっぱりオチは『メタ』であり実はコメディー(ショートショート系)。
手足を根元から損ない、耳も声も失い凄惨な巨大な肉ゴマと化した傷痍軍人を介護する影で自らの情欲の道具として弄ぶ妻が、唯一残った夫の目を押し潰す愛憎と狂気の『芋虫』はガチンコ。
トリックが(今の基準で)浅くても怪奇趣味でも、どこか文章が清潔で、不思議と清々しい短編集でした。*1
*1:大正時代の文体がただ単に好きなだけな可能性も