今敏『パプリカ』
超久々に映画観た。とりあえず今日の夕方で今週のレポートラッシュがひと段落して、来週の学期末テストラッシュまで時間があったので。劇場で映画を観るのはもしかして『ワイルドスピードX3』ぶりかもしれない。もうDVD売ってたよ!あー、でも映画っていいなあ。物語は栄養になる。(ややネタバレあり)
で、パプリカ。
性器のない巨大なおっさんが全裸の女の子に呑み込まれる映画…なのかな。や、一番インパクトがあったのがそこなので。あれは今敏にあるまじき神話的なイマジネーションだったなあ。なんかあそこだけ『キリクと魔女』みたいでしたよ。
帰りにパンフで『今敏自身が映画化の企画を立てたことがあったが立ち消えた』『筒井康隆自身が映画化にあたって今敏を指名した』って件を読んで、俺が思っていた事の理由が分かった。
この映画、宮崎駿が『ゲド戦記』を監督したみたいな映画なんだよな。
あまりにそれっぽすぎて、相性が良すぎて、ハマってるんだけど若干退屈、みたいな。最後の方の筋とか『妄想代理人』と大分被ってるしなー。『フィクションとメタフィクションを行き来して最終的には思念の集合体とのカタストロフかよ』みたいな。『マロミかよ』みたいな。カキワリの街とかもだし。刑事とか。若干今敏の新作としては新鮮味に欠けるところもあるかも。
でも逆に、映画というフォーマットを隅々まで遊びつくした『悪童』今敏の現時点での『集大成』ではある。これを撮って今までの作品にカタをつけた今敏の、全く新しい次回作が観たい。そういえばラスト、(今敏が自分の映画に昔の映画のポスターをカメオ出演させる事は有名とはいえ)、自分の映画を全部劇中映画館に掛けてたしね。
今思いついたけど、
今敏の次回作が『夢見る子供たち』だったら笑う。
この映画のクライマックスで、DCミニに接続された人たちの夢が現実に侵食してくるんだけど、劇中ではその明確な理由は語られない。夢に侵入、共有する道具としてのDCミニは、一応科学的な理由付けがされて、『アリ』な事として描かれている。だけど、夢が現実を浸食することについての説明はほとんどなされていない(アナフィラキシーがって話もあったけど、あくまで被験者の意識の中での話しだ)。クライマックスの展開は、あくまで不条理だ。
しかし不条理なまま、ストーリーは駆け上がっていく。その不条理の頂点が『性器のない巨大なおっさんが全裸の少女に呑み込まれる』シーンなんだけど、その説明の欠如は、わざとだよね。現実の都会に夢のパレードがあらわれても、だれも説明しない。それはだから、『映画は夢なり』っていう、この映画が全力で主張している事なんだろうなっていう。夢だから、説明しない。パプリカや敦子たちが見るどんな世界も、現実ではなく、夢の断片。ただそれだけの事を、夢の中から始まるこの映画は主張してるんだなと。Greeting showtime!
パレードがさ、平成狸合戦ぽんぽこっぽいなーと思ったんだけど、ああ、そうかパレードって百鬼夜行なんだなーって。祝祭空間、彼岸からの使者。だから、現実に押し殺されてしまいそうな夢たちも、狸たちも、千葉のネズミ達も、土着の神々も、闇とか夢とかあの世とか、そういう彼岸から自分達の存在を示すために列を成して、太鼓を叩いてやってくるんだなぁと。…切ないっすね。
細かいところ
- 刑事の回顧、『自主映画を一緒に撮っていた友達』の話でバーテンダーに「その人の名は…?」と訊かれた刑事が『今敏だ』って答えるんじゃないかと勝手にハラハラしてました。
- 序盤は巨漢の古谷徹の肥満表現がいちいち面白かった。高速道路をセダンが走っていているカットで後輪だけパンクしてるのかってほどタイヤが潰れていて、あれ、作画ミスか?と思ったら古谷徹が載ってたとか、研究室に入るとき古谷徹だけさりげなくサブの扉*1も開いてるとか。あんまり笑ってる人いなかったけど。
- 『イマジナリーライン、越えてるよ。』は唐突で笑った。と同時に、うわ、気付けなかった悔しい!という気持ちに。その後でパプリカにイマジナリーラインを説明するところはなんか『ファイト・クラブ』(のブラッド・ピットがフィルムリールのパンチを解説するところ)ぽかったね。
- 「トラウマでもくらえ!」はなんとなく名言。
- 17階は特撮売り場だったけど特に特撮を撮っていた訳では無いらしい。あー、でも頓挫した作品が特撮だったのかな。
- 中盤20分くらいで突然採用され、気がつくと使われなくなってる、『人物に投影された木漏れ日』の表現が目を引いた。けど、なんかちょっと画面が汚くなってるっていう印象が先に立ってしまった。IGのエフェクターの江面久(イノセンス)さんならもっときれいにしたんだろうなー。メイキング記事でそんなような事を言ってたし。
- 原画が少数精鋭だった。制作時期が被ってた『時かけ』は逆に中堅以下の大人数ってイメージだった気がするけど、そうやってMAD HOUSE内で制作体制を融通してたのか。
- スタッフといえばこの映画、9月にはヴェネチアで上映してるから、実際の製作期間は夏の大作映画、『ゲド』『時かけ』『ブレイブ』と結構重なってるはず。この三作品に大御所アニメーターの名前があんまり見えないと思ってたら、みんな『パプリカ』やってたのか。今敏、アニメーターに好かれてるなぁ。
- っていうかパンフはスタッフ名を全部載せてください。今回は氷川竜介(アニメ映画パンフレット専門評論家)の文章が度を越して訳がわからなかったので、読みどころが全く無い!
- サラリーマンが次々に投身するところは『自殺クラブ』?
- 原作者と監督が出てきて(バーテンダー二人の声優は彼らです。)事態収拾に動く(大して役に立ってないけど)ってド直球でデウス・エクス・マキナっすね。
- 日本人形のセリフにエフェクト掛かりすぎで何しゃべってんだかまったく分かんなかった。その聞き取れなさ具合はまさしく童の時は語ることも童の如く思うことも童の如く論ずることも童の如くなりしが人となりては童のことを棄てたり今我ら鏡持て見るごとく見るところおぼろなり。
あと…っていうか理事長がキム(イノセンスの)にしか見えなかったので、出てきた瞬間『ゴーストハックの犯人はこいつだ!』と思った。おっさん顔の日本人形や球体関節人形がいっぱい出てくるのは押井守へのいやがらせですか?ついでに理事長の植物園が『時をかける少女』(大林宣彦版)みたいなのは筒井康隆(+MAD HOUSE)リスペクトですか?
追記:あ、あの全裸少女は敦子とパプリカの統合人格なのか。なるほど、夢の女は消滅(つか統合)したのか。ああ、敦子は自分の愛に素直になり人格も統合されハッピーってストーリーなのか。…うわあ話の筋が読めてねえ俺。ハッピーな『ファイト・クラブ』みたいすね。
ん、あれ?後半の現実パートってDCミニに繋がってた人たちだけが見てた共同夢?ていうかどこから夢?あれ?……っていうお話でした。
*1:大学の扉とかでよくある、機材搬入用に幅を広げられるようになってるやつ